タイトル:音楽のボランティア活動を通して

寄稿:昭38学電 橘   弘
    (挿絵とも)

 パンパカパーンとトランペットを中心にしたファンファーレの合奏の音が部屋中に響いた。 初めは大きな音で何事か、とビックリしてステージを注視しているが、知っている曲が出て来ると安心した愉しい表情に変わる。多くは車イスに乗った年配の人達である。 私たちはボランティア活動で音楽慰問をしている。相手は老人ホームや知的障害の施設である。バンドは小規模で、トランペット、クラリネット、ホルン、トロンボーンなど10人程の吹奏楽団である。

楽器の挿絵  施設の人々には、生の音楽を聴く機会が少ないので、音楽慰問は喜ばれる。 目の前で楽器の暉きを見、合奏している姿やボーカルの動いた表情が、好奇心をくすぐるのだろう。そして時間が経つにつれて音楽の世界に、のめり込んでいける。元気に身体を動かしたり、手拍子をする姿は見ていても気持が良いし、演奏している方も張り合いがある。しかし、高齢者となるとそうもいかない。眼は閉じており、時折、ステージを見るだけとなる。しかし、その後、食欲とか元気になったり、変化が見られる、という。いわゆる"音楽療法"である。ある時には、おばあちゃんが司会の女性に、いきなり抱きついて来た。突然の出来事で驚いたが、係りの方がユックリ、なだめながら車イスに戻していた。後で聞いたら普段は温厚な人柄だという。音楽が余程、楽しかったのでしょう、との説明だった。演奏する曲目は、皆さんに喜ばれる音楽を選んでいる。高齢な方には、今は聞く事が少なくなった"童謡メドレー"がうける。 "水戸黄門の歌"も評判がいい。良い音楽や高尚なものより、自分の青春時代や元気だった頃に聞いた曲を聴きたいのである。それを身体で感じて元気になったり、気持が高揚する訳だ。 花束のさし絵 その後に、我々の持ち球というか、やりたい曲を演奏すると気持ちよく聞いてもらえる。演奏が終ると、時にはお礼に花束の贈呈もある。ある所では出演者、10人に対して、花を渡す人が10人、ズラーッと並んだ。そして一人づつ一輪の花を手渡してくれた。これは、とても嬉しかった。一輪の花に、ほのかな暖かみが伝わり、本当に喜んでくれたんだな、の想いがこちらに伝わってきた。帰りの車の中は、ルンルンした気分が広がり、自然にどの顔にも微笑みが見られた。

 慰問に出掛ける時には、こちらから音楽という贈り物を持っているので張り切っている。それは自然であろう。館の中に入れば、普通とは別の眺めだがやはり、それなりのひとつの社会がある。暫くすると目が慣れてよく分かる。面倒を看ている人は休む間もなく、忙しく世話をしている。秩序を保つ動きも判るし、その真剣さも伝わってくる。入園している人達も目的に沿って、それこそ一生懸命にやっている。実際の所、音楽慰問を済ませて帰る頃には、こちらの方が逆に、鼓舞されている。健康に恵まれている並の人間は、日々もっと頑張らなければ!! と激励されて帰ってくるのである。

クラリネット吹奏の筆者の写真
クラリネット吹奏の筆者


憩いのひとときにピアノを演奏する筆者の写真
憩いのひとときにピアノを演奏する筆者

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