熱エネルギ−の話/地熱発電所

国立東京高専 名誉教授 山崎慎一郎(31学原)


1.地熱発電

 「エネルギ」はギリシャ語から来た外来語で、中国語では「能源」と書くが、日本語訳は無い。  筆者は、第1図のように偏の上にエ、下にネル、旁に義と一文字で書くことを提起する。
 熱エネルギとなる地熱資源には、火山性(浅部、深部熱水系、高温岩体、火山)と非火山性(深層熱水、温水)がある。 これらの資源は、高温岩体発電、火山発電、地熱発電、温泉として利用されている。  また、 熱水は工業的に180℃の高温から段階的に10℃まで利用されている。
 地熱発電は、地下から噴出する天然の、または地上からの注水による蒸気又は熱水を利用してタ−ビン・発電機を回し、 発電を行うものである。 このため、燃料費がかからず、さらに、単位発電量当たりの二酸化炭素排出量が火力発電の 約20分の1と少ないので、地球の温暖化防止の上からも大変良い発電方式である。
 実用化の歴史を見ると、地熱発電は、1904年、イタリアで天然蒸気を利用して0.75馬力の発電機を 実験的に運転したのが始まりで、1913年、世界で初めて250kwの地熱発電の実用化に成功した。

2.日本での実用化

 日本では1920年、蒸気井を利用して、別府で最初の1.12kwの発電に成功した。
 現在、稼働している日本の地熱発電所は、岩手県の「松川」23,500kwを筆頭として全部で合計17ケ所にあり、 総発電量は533 ,305kwである。この量は日本の発電総量から見ると0.2%に相当する。 詳細は第1表のとおりである。
 この中の一つ、杉乃井は、別府にある杉乃井ホテル専用のもので、ここでは、早々と地熱による給湯・冷暖房を行っていたが、 その後発電所を建設して、全ての電力を地熱発電で賄なうことに成功した。 更に、発電後の排気の中に含まれるシリカを 取り出してシリカ電池を作成し集会所に貼りつめて電力に変換したり、又、発電の廃熱を利用して宿泊客の排泄物をガス化し 燃料として使用している。

3.世界での実用化

 世界の地熱発電所はアメリカが最大で2,849.8Mwの出力があり、以下、各国の発電総量は合計7,326.16Mwである。 この量は全世界の総発電設備から見ると僅かなもので0.4%である。 詳細は第2表に示す。
 中国の主要地はチベットの羊八井で、ここは首都ラサの郊外、4300mと世界一高い所にある発電所である。  地下100〜300mの蒸気井から蒸気、熱水を取り出して発電し、排水を利用してグリーンハウスを作り野菜の栽培をしている。  この地熱地帯は非火山性で大陸地殻の移動による深層地熱によるものと考えられる。

 フィリピンは7,107の島からなり、アメリカに次いで世界第二の地熱発電国である。  第二次大戦の激戦地レイテ島はマルコス元大統領のエメルダ夫人の出身地で、その北部にTongonan 発電所がある。  この島の電力を、すべて地熱発電で賄うための建設が現在行われている。
 首都マニラのあるルソン島の南部、マキリン火山とバナハウ火山の間にMac-Ban発電所がある。 発電機・タービンは三菱製である。  私が訪れたときは丁度建設中であつたが、部落住民の住んでいる「ニッパハウス」は邪魔になると 大統領令によって簡単に移動させられていた。 椰子の木の伐採に対する補償はあるが、住居には無いとのことである。  同じルソン島の南端、ルソン島第二の都市レガスビの郊外には噴火・爆発を繰り返しているマヨン火山がある。  この近くにTiwi発電所がある。発電機・タ−ビンは東芝製である。

 インドネシアはアメリカ合衆国がすっぽりと入ってしまうほどの広大な面積の海に囲まれた島国であり180の火山がある。  ジャワ島、バンドンの南東40km、海抜1700mにKamojang 発電所がある。 1〜1.5kmの蒸気井からは過熱蒸気が得られており、 効率よく発電が行われている。

 台湾の清水は台北の郊外にあって3000kwと小規模である。
 タイは非火山国であるが、北部の「黄金の三角地帯」と呼ばれている近くには広大な地熱地帯がある。  これもチベットと同様大陸地殻の移動による深部地熱と考えられている。 今後の大規模な利用が期待される。

4.地熱発電の問題点

 地熱発電の問題点は、硫化水素の放出による大気汚染、建設中のボ−リング作業による騒音・振動、噴気の騒音、 熱水・蒸気採取による地盤沈下、土砂流出による河川水の汚染、土壌汚染、熱水・蒸気の放出による植物の損傷、景観の変化、 泥水の温泉への混入、温泉の減衰、熱水還元による人工地震の誘発等がある。 また、わが国の地熱地帯は、 国立公園法で開発が規制されている区域が多くて簡単に開発できない点がある。

5.地熱発電の経済性

 経済性としては、調査から建設まで長年かかり、建設単価が予測できない面がある。「大沼発電所」は、 三菱マテリアルが自社の金属製錬用の電力源として建設されたが、途中段階で費用が余りにも掛かってしまうために、 中止をすることを考えたが、社長の決断で完工させた。 この後、まもなくオイルショックが起こり日本中が大混乱になったが、 この発電所のお陰で制約を受けずに営業出来ている。 一方、「森発電所」は建設の途中で、逆に工事費が下がる事態に恵まれた。
  建設コストは発電規模、算出者によってばらつきがある。 最近の資料によると1kwh当たり、地熱は16円、水力13.6円、 石油火力10.2円、石炭火力6.5円、天然ガス火力6.4円、原子力5.9〜14.2円となっている。 詳細は第3表に示す。

6.むすび

 熱は高温から低温まで利用出来る。 エネルギ資源の無い日本にとって、熱の有効利用は極めて大切である。  熱力学の始祖Sadi Carnot (1796〜1832)の言葉「動力の発生を伴わない熱の高温から低温への移動は、 正味の損失と見なさなければならない」をよく噛み締めなければならない。

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